呼吸器科

気管支喘息 呼気一酸化窒素 甲府 湯村温泉病院

 [ 呼吸器科 ]

院長の高橋です。

気管支喘息の診断において気道の「可逆性」「過敏性」「炎症」をとらえることが重要であることを記してまいりました。
しかしながら、スパイログラムで過逆性をとらえられる確率は高くはなく、過敏性、気道炎症を通常のクリニックで調べることが困難であることも記してまいりました。

では、咳喘息のような病態を正確に診断するにはどうすればいいでしょうか。

ここで呼気一酸化窒素(FeNO)測定が大いに役に立ちます。

1990年代後半から、呼気の一酸化窒素が測定可能となり、その濃度が高いと低濃度の気道収縮薬(メサコリンなど)で閉塞性障害が起きる=気道過敏性亢進していることがわかってきました。
さらに、FeNO濃度と喀痰中の好酸球数がよく相関することも明らかとなり、FeNOを測定すれば、気道過敏性と気道炎症が評価できる、と考えられるようになりました。

なぜ、FeNOと気道の好酸球性炎症が相関するのかについては、複雑で完全にはわかっていないようですが、炎症に応じてマクロファージなどの細胞がだす液性因子が気道上皮細胞などを刺激してNOが産生され、それが血管から気道への好酸球流入を促したり、NOはTh1細胞という非アレルギー性のリンパ球を抑制するため、好酸球のようなアレルギーに関与する細胞にとって都合のいい環境となる、といったことが考えられています。

FeNO測定に関して測定器についてはチェスト社のホームページを、測定そのものに関しては呼吸器学会のサイトをご参照ください。

咳喘息 甲府 湯村温泉病院

 [ 呼吸器科 ]

院長の高橋です。

「咳喘息」の続きです。

「日本呼吸器学会 咳に関するガイドライン第2版」に示されている咳喘息の診断基準をお示しします。

以下の1~2のすべてを満たす
1、 喘鳴を伴わない咳嗽が8週間(3週間)以上持続
聴診上もwheeze(喘鳴)をみとめない。
2、 気管支拡張剤(β刺激薬またはテオフィリン製剤)が有効

本来気道過敏性検査を行いたいところですが、限られた施設でしか行えないため、上記のようなシンプルな診断基準となったようです。
ただし、咳が3週間程度の場合、確率的に感染症による咳嗽であることが多く(上記ガイドラインP7 図Ⅲ―1参照)、気管支拡張剤投与するタイミングと感染症が治るタイミングがたまたま同じである可能性も否めません。

問題なのは、咳喘息はあくまでも気管支喘息の亜型であり、慢性気道炎症があり、リモデリング(後述)もおこすため、治療継続しないと30%ほどは典型的な喘息に移行してしまうといわれている点です。ひとたび咳喘息と診断したら1~2年の継続的治療が勧められるのですが、感染性咳嗽のかたを咳喘息と診断し、長期の治療を強いて、時間的、経済的負担をおかけすることは避けなければなりません。

ここで再度ガイドラインに立ち戻りますと、「末梢血、喀痰好酸球増多、呼気中NO濃度高値をみとめることがある」と記されています。
この呼気中NO(一酸化窒素)濃度測定が当院における喘息診断の大きな武器となっています。

咳喘息 甲府 湯村温泉病院

 [ 呼吸器科 ]

院長の高橋です。

気管支喘息の特徴として気道の「可逆性」「過敏性」「炎症」と述べてまいりました。
もうひとつ「リモデリング」を挙げていましたが、その説明の前に「咳喘息」のお話をさせていただきたいと思います。

咳喘息が初めて報告されたのは、1979年の New England Journal of Medicineという医学雑誌、とされています。その論文では、*喘鳴(ゼーゼーいう音)をみとめない、*気道過敏性は亢進している、*スパイロメーターで気道閉塞をみとめない、*気管支拡張剤が有効、といった特徴を有した、咳のみを症状とする6例の症例が報告されました。

以後、実は長引く咳のみを主訴にしているひとのなかに喘息が潜んでいるのでは、と考えられるようになりましたが、日本で咳喘息が一般的に知られるようになったのは、2010年皇后様が咳喘息、と報道されてからのように思います。この報道のあと、自ら「咳喘息ではないでしょうか」と心配されて外来にいらっしゃるかたが増えました。

以前のブログでお示ししましたが、一般の診療所で気道過敏性の評価は困難です。では、咳のみを症状とするかたが咳喘息なのかどうかどうやって診断してゆくのでしょうか。

気管支喘息 甲府 湯村温泉病院

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院長の高橋です。

気管支喘息を特徴づけるkeyword3 「気道炎症」

まず炎症とはなんでしょう。

炎症というのは組織の一部が損傷したり、病原体による感染を受けたりしたときの、一連の生態防御反応です。わかりやすいのは、打撲をしたときに腫れ上がって熱をもったりすることです。炎症をおこしている場所では、異物を排除したり、組織を修復するためにいろいろな細胞が活動します。

炎症といっても、状況によってさまざまな形態をとるのですが、気管支喘息の場合好酸球、Tリンパ球、マスト細胞、といった細胞が主体として活動します。
なかでも好酸球は古くから喘息における気道炎症の中心と考えられてきました。

好酸球とは白血球の一種で、通常の血液検査(末梢血検査)においても白血球の3%程度は好酸球です。寄生虫などに対する生体防御機能を担っていると考えられていますが、アレルギー性疾患において抹消血中の好酸球の割合が増えることが知られています。

気管支喘息もアレルギーが病態に強く関与しており、(アレルギーと喘息については、また別の機会に詳述する予定です)、気道に多数の好酸球をみとめるため、喀痰中の好酸球数を数えることが喘息診断に役立つことがわかっています。

学術論文等では、喀痰を採取し、顕微鏡で痰中の炎症細胞を200個数え、3%以上が好酸球であれば好酸球増多とされています。

しかしながら、喀痰好酸球のカウントは、労力がかかり医療保険でみとめられている検査ではないため、ごく一部の医療機関で研究を兼ねて行っているだけ、というのが実情です。

気管支喘息 甲府 湯村温泉病院

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院長の高橋です。

喘息を特徴づけるkeyword2 「気道過敏性」

気管支喘息のかたは寒冷刺激など軽度な刺激で気管支が収縮し発作がおきます。
この過敏性については慢性炎症のため気道上皮が障害され、知覚神経がむきだしになり、迷走神経(副交感神経)が興奮し、気管支が収縮する、などの理由が考えられています。

ちなみに気管支の収縮は自律神経(交感神経+副交感神経)によって司られており、副交感神経が強く働くと、気道の筋肉が収縮し、気道が狭くなります。通常交感神経は興奮しているとき、副交感神経はリラックスしているときに優位となるため、夜間身体がやすむときは副交感神経が優位になります。これが喘息発作が夜間に多い一因です。
治療に使う気管支拡張薬というのは、交感神経を刺激、もしくは副交感神経の興奮を抑えて気道を広げる薬です。

この気道過敏性を評価するためにアストグラフ法という方法があります。これはヒスタミン、アセチルコリンといった気道収縮を誘発する物質を吸入していただき、気道抵抗を調べる方法です。過敏性が亢進しているひとは、健常者より低濃度の気道誘発物質で、気道抵抗の上昇をみとめます。

残念ながら、当院ではアストグラフは困難です。まず特別な機械が必要です。また気道収縮を誘発するため、重篤な発作を引き起こす危険を伴います。実際一部の大学病院などごく限られた施設においてのみ、アストグラフは行われています。

気管支喘息 甲府 呼吸器内科

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院長の高橋です。

さらに「気管支喘息」について続けます。

喘息を特徴づけるkeyword1 「可逆性」
喘息のかたは夜間や早朝苦しくて横になれないほどなのに、日中はほぼ無症状、ということが多いと思います。症状がつづくときでも吸入や点滴がかなり有効です。これが「可逆性」すなわちもとにもどるということです。
客観的な評価法としてはスパイログラムが用いられます。多くのかたは「肺活量の検査」として認識している「息を大きく吸って~吐いて~」のあの検査です。
最初の一秒間で吐き出せる空気の量を一秒量、それが肺活量の何パーセントに相当するかを一秒率といいます。一秒率が70%未満の場合閉塞性呼吸障害といいます。気道が狭くなって閉じやすいことをあらわしています。典型的な喘息では閉塞性障害をしめしており、さらに気管支拡張剤を投与すると、一秒量が12%以上、絶対量で200ml以上増加した場合「可逆性あり」と判定され、喘息診断の大きな根拠となります。

しかしながら、外来受診時すでにゼーゼーがおさまっているかたにスパイログラムを行ってみると、閉塞性障害を認めないことが多いのです。H20年の厚労省の研究班の報告(「気管支喘息の早期診断基準の提言」)においても最終的に喘息と診断されたかたでも67%で閉塞性肺障害をみとめず、可逆性検査陽性率も約半数であり、初期診断に適した基準ではない、とされています。
やはり喘息を客観的に評価するのはむずかしいのでしょうか。

気管支喘息 甲府 湯村温泉病院

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院長の高橋です。

「気管支喘息」の続きです。

前回お示しした喘息の定義を私なりにわかりやすくしてみます。

「喘息とは気道が狭くなるため、ゼーゼーしたり、咳がでたり、苦しくなったりする病気です。治療をすれば、ときには自然に元にもどります(可逆性)。気道の炎症が続いているため、過敏になっており、いろいろな刺激によって気道が狭くなるため症状が起きます。炎症には好酸球、T細胞、マスト細胞などの細胞やそれぞれが出す因子が関与しています。そういった炎症を放っておくと気道の構造変化(リモデリング)が起き、治療をしても元に戻りにくくなってしまいます。」

少しはわかりやすくなったでしょうか。

喘息にはほかの疾患と違い、診断基準というものがありません。
たとえば糖尿病でしたら空腹時血糖126以上、HbA1c6.5以上であれば糖尿病と診断されますが、喘息の場合、検査値やいくつかの症状がそろえば喘息と言い切れる、といった基準がないのです。ここが診断をやっかいにしている所以でもあります。

定義のなかで重要なkeywordとして、「可逆性」「気道過敏性」「炎症」「リモデリング」が挙げられます。次回からはこれらについてさらに詳しく記したいと思います。

気管支喘息 甲府 湯村温泉病院

 [ 呼吸器科 ]

院長の高橋です。

気管支喘息について、さらに詳しく述べさせていただきます。

“Asthma is like love.” ある先生が講演のなかでこのフレーズを使っていました。
原典はなんなのかネットで調べてみたところ、アメリカの総合病院の呼吸器科のサイトなどでちらほらみかけました。欧米の呼吸器科医のなかでは慣用的に使われるフレーズのようです。

Everyone knows what it is, but no one can agree its definition. と続きます。

「喘息とは愛のようなもの。誰もが知っているけど、それぞれ思い描いているものは違っている。」というような意味だと思います。

次に国際的に使われている喘息の定義、というものをお示しします。

“気道の慢性炎症と種々の程度の気道狭窄と気道過敏性の亢進、そして臨床的には繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難によって特徴づけられる。気道狭窄は、自然に、あるいは治療により可逆性を示す。気道炎症には好酸球、T細胞、マスト細胞などの炎症細胞、気道上皮細胞、線維芽細胞をはじめとする気道構成細胞、および種々の液性因子が関与する。持続する気道炎症は、気道傷害とそれに引き続く気道構造の変化(リモデリング)を惹起し、非可逆性の気流制限をもたらし、気道過敏性を亢進させる。”

この定義では逆に全体像がわかりにくく感じませんか?

気管支喘息 甲府 湯村温泉病院

 [ 呼吸器科 ]

院長の高橋です。

咳が長引いているのにレントゲン上異常をみとめないとき、忘れてはならないのが気管支喘息です。

咳の持続期間が3週間未満の場合、原因としては感染症が多いのですが、3週を超える「遷延性咳嗽」の場合感染症以外の原因が増えてきて、8週を超える「慢性咳嗽」となると、むしろ感染症は少ない、と考えられています。

さらに「慢性咳嗽」の原因で一番多いのが気管支喘息と考えられており、近年では慢性咳嗽の5割以上が喘息である、という報告もあります。

気管支喘息といいますと、一般的には息をはくときゼーゼー、ヒューヒューという音が鳴り、呼吸が苦しくなる病気、と認識されていると思いますが、調子がいいときは呼吸機能が正常にもどるのが喘息の定義でもあり、クリニック受診時にはすでにおさまっていることが多いのです。

さらに、近年咳だけが唯一の症状である喘息(咳喘息)という概念も広がってきており、喘息の診断は決して簡単なものではありません。

まずは丹念に聴診をし、強く息をはいたときに喘息特有の異常音がするかどうか確認します。また、咳のでる時間帯(喘息では通常夜間)、やアレルギーの有無、いままでも風邪をひいたときなどに咳がつづいたことがあるか、などの問診が重要となります。

長引く咳 甲府 湯村温泉病院

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院長の高橋です。

「長引く咳」の続きです。

咳の持続期間が3週未満で、年齢が若く、最初に鼻水や微熱などの感冒症状をともなっており、すでに咳のピークを越えていれば、感染後咳嗽(かぜに続発する咳)と考え、いわゆる咳止めだけで様子をみることとなります。
咳が悪くなる傾向であり、かなり激しい場合(嘔吐をともなうようなこともあり)、百日咳やマイコプラズマ、肺炎クラミジア(クラミドフィラ)感染といった特殊な感染症が鑑別に挙がります。これらの診断は一筋縄ではいかない面があり、別の機会に記載したいと思います。

来院時発熱があり、聴診上吸気時に異常音を聴取する場合、肺炎を考えレントゲンをとります。そのほか高齢者、喫煙者、癌の既往のある方、糖尿病などの持病があるかたなどは、肺炎のみならず肺癌、結核などのリスクもあるため、肺音が正常であってもレントゲン撮影をお勧めします。

さて、レントゲンで異常がなく、感染症でもなさそうな場合、必ず念頭におかなくては気管支喘息です。次回からは当院での喘息診療に関して述べさせていただきます。